貧乏話の続きだ。
食べるものにも困るような赤貧が夏まで続いた。夏休みに飲み屋で待ち合わせた高校時代の友人が、話しかけるまで私のことがわからなかった、と言えば困窮の度合いが想像つくだろう。体重にして15キロ程度。
そうした困窮に拍車をかけたのが、明るい男女交際。男女交際といっても、真面 目な大西少年は喫茶店で話し込んだりする程度のことだったのだが(大学周辺には当時ジャズ喫茶ぐらいしかなかった)、楽しい会話が終わった後伝票を掴むのはいつも私だったからだ。
もちろん食堂の昼定食を食べるのも悩むような貧乏だったから、ごく自然に掴んでいたわけではない。「ここで700円払うと明日は昼ご飯食べられないなぁ」とか「700円あったら昼ご飯食べてから新聞買えるなぁ」とか、内面 ではいろいろ葛藤があったのだが、「割り勘にしようか」という言葉はついぞこの口から出た例しはない。いい格好したかったんだろ、と言われればそれもそう。だがそれよりも、世の中はそういう風になっていると思っていた、という方が当たっている。内面 の葛藤はいつも「食べられないなら、食べなきゃいいや。慣れてるし」という結論になった。
「この次はお願いするよ」
颯爽と伝票を掴んだ大西少年、ちょっと足下ふらついていた。
吝嗇は嫌いだ。
「吝嗇」とは、有り余る金・時間・才能がありながら、出し惜しみする事を言う。昼ご飯を我慢してコーヒーを奢るのは単なるお馬鹿さんだが、出し惜しみするよりはいい。少なくともダイエットにはなる。
最近よく「頻出語を覚えたいんですが、いい単語集ありますか」などといった質問を受ける。
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「1000語で英会話できますよ」と言う人もいるようだ。
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もちろんできるさ。税関を抜けて、タクシー拾って、買い物に行くくらいはね。そういったカギカッコ付きの「英会話」でいいならね。「get と have と be と give と take と makeで大丈夫」?? 一体何が大丈夫なのか。
これらはすべて吝嗇に根ざしている。「損はしたくないなぁ。あんまり出てこない単語覚えても仕方がないしなぁ」「get と make でいいなら、他の動詞はなるべく覚えたくないなぁ」。
一週間後の海外旅行に備えるならいいだろう。英語に最低限の時間しかかけられないのなら仕方がないだろう。我々はたくさんのやるべきことを他に抱えている。だが多くは、有り余る時間がありながら、洋書を自由に買えるお金を持ちながら、ケーブルテレビで BBC が見られる環境でありながら------そして、英語を自由に使ってみたいと思っていながら------、出し惜しみしているのだ。それを私は「吝嗇」と呼ぶ。
単語に上下の区別なし。
当たるを幸いなぎ倒せ。「millipede: ヤスデ centipede: ムカデ incest : 近親相姦 bigamy : 重婚arson : 放火......」。頻出語じゃない?いいじゃあないか。millipede がわからねば、Discovery Channel を楽しめないだろう。語源?そんなことは気にするな。millilitre(ミリリットル), milliampere(ミリアンペア), millennium(千年)... 十分数を覚えれば、語源はついてくる。millipede がどんな虫だかわかるようになる。そしたら centipede も理解できよう。
騙されたと思って、やみくもに覚えてごらん。「頻出」だの「よく出る」だの「これでバッチリ」だの、けちくさいことは全部忘れて、とにかく覚える。どんどん覚える。歯を食いしばって覚える。10000も覚えれば、何もかもがちがって見えるはずだ。BBC だってわかるようになる。
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学生時代の貧乏が私に残したもの。それは簡単に「歯を食いしばれる」能力だ。3日間水だけ、よりも辛いことは世の中にあまりないだろう。そして、人生は歯を食いしばっただけのものは返してくれる。私の場合は、ガールフレンドとの楽しい語らいだったが、
英語力も同じである。