第3回 Negotiation 1.

Politeness -丁寧な印象を与えるテクニック- (1)

■先週までのまとめ
1.「ビジネス英語」などという特殊な分野はない。
2.ビジネスに役立つ英語力をつけるためには「ネイティブの感覚を伝える英文法」 が必要。
3.この講座ではビジネス英語の主たる3分野(Telephone English, Presentation, Negotiation) のうちNegotiation を中心に解説する。あとの2分野については私が解説する必要はないでしょう。本屋に行って立ち読みしてきてください。

■Negotiation (交渉)とは
 negotiation (話し合いにより agreement に達する ) の技術は、とくにビジ ネスの世界だけに必要なものではありません。生き抜いていく上で常に必要な、いわ ば life skill です。生まれつき得意な人もいる一方、どうしても苦手な人もいるで しょう。日本では「口べただけれども気がいい人」など、交渉下手がいいイメージに 結びつくことも往々にしてありますが、ビジネスの世界に身をおくのであれば、negotiation の能力は将来を左右する重要な要素であることにかわりありません。
 negotiation の場では assertive (自分の主張をしっかり言える)であることが まず第1の要件です。しかしassertive であることと、insensitive(無神経), sel fish (利己的), stubborn (がんこ), pushy (厚かましい)とはまったくちがい ます。有益な negotiation とは assertive でありながら無用の軋轢をさけ、お互い の満足する結論に到達する技術に他なりません。
 さて、この「無用の軋轢をさける」技術の1つ「丁寧な印象を与える技術」が、こ の講座の最初のターゲットとなります。

■丁寧さをかもしだすメカニズム
「丁寧さ」を表現するには大きく分けて2通りのやり方があります。1つは文法的 に文の形を操作するやり方。もう1つは表現上の工夫を凝らすやり方。しかし、その どちらもが同じ仕組みで「丁寧さ」とつながっています。まずはここからしっかりと おさえておきましょう。一足飛びに「丁寧な言い回し」をマスターするよりも、はるかにネイティブの語感に近づくことができるでしょう。

■文の形の操作による「丁寧」
 まずは次の一連の例を眺めてみましょう。下に行くにしたがって丁寧度は上がって いくことに注意してください。

        a. Open the door.
        b. Can/ Will you open the door.
        c. Could/ Would you open the door.
        d. I wonder if you would be so kind to open the door.
          (「いつのまにか身につくイメージ英語革命」講談社刊より抜粋)

 どれも本質的には「窓を開けて」と言っているのです。ところが受ける印象は、子供 に言いつけるような a の文から非常に丁寧な d まで相当な開きがあります。これは なぜでしょうか。
 丁寧さのレベルは「言いたいことからどれだけ遠ざかるか」に比例します。a のよ うに自分の要望を直接ぶつける、これはもっとも丁寧さが低いことがすぐにわかるで しょう。
b のcan/ will は直接自分の要望を述べているわけではなく、形の上では「〜す ることができるか(能力)」「〜するつもりはあるか(意志)」を尋ねてますね。で すから本来の要望から離れることができ、その結果丁寧度が少し上がるのです。もち ろんこの場合は疑問文であり相手の答えを尊重する形になっているのも見逃せません。
c はそれがさらに Could/ Would と過去形になることによって b よりも丁寧な表 現となっています。形の上で「現在のことについて言ってるんじゃないよ」とするこ とによって、元々の要望からさらに離れることに成功している、というわけです。英 語には Could/ Would 以外にも過去形を使うことによって丁寧感をかもしだすことが 多々あります。
        e. I hope you can come with me. (きてくれるといいんだけど)
        f. I hoped you could come with me. (おいでいただけるといいのですが)

f の文には、e よりもずっと丁寧なカンジが漂っています。理屈は同じ。過去形を使 うことによって「今望んでいる」という生々しさを消し去っているんですよ。さて最後の d ですが、これは非常に丁寧な物言いです。直訳を考えてみましょう 。「ドアを開けてくださるくらいの思いやりがあるかしらと思う」ですね。この文は 本来独り言なのです。独り言の体裁をとることによって、「相手への要望」から極端 に離れているというわけです。
 まとめましょう。丁寧さは言いたいことから離れるほど増大します。「助動詞」「 過去形」がしばしば使われるのは、「要望からの距離」を実現させるためなのです。

■表現上の工夫

 丁寧さをかもしだすためのもう一つのテクニックは「表現上の工夫」です。しかし 、そのメカニズムは、上とまったくかわりません。「本来言いたいことから離れる」 ということなのです。例をあげましょう。(  )内が本当に言いたいことです。
        A. I think downsizing is the only option, and I...
        B. Well, I'm not sure that's such a good idea. (= terrible idea!)
        A. Why not?
        B. Those who lose their jobs won't be too happy about it. (= furious!)

 本来言いたいことから距離をとろうとして別種の表現に言いかえていることがわか りますね。

 さて、これで「丁寧表現」の基本は終わり。あとはみなさんがビジネスで出会うさ まざまな状況にそった丁寧表現を細かく解説しながら山ほど教えて差し上げるだけ、 となります。

          ああやっとビジネスらしくなってきた。 ではまた来週。