うーす。検査室によーこそ。

このメルマガは、人様が丹精した英文を土足で踏みにじるとんでもない内容です。ごめんねー。Tシャツの文字から、筆箱のふたまで、要するに英語がくっついていれば、何から何まですべてが検査対象となります。 商品にくっついている英語は、「テレビチャンピオン」に出てくる司会の男のようなもの(ノリタケとかフミタケとかゆー牧場をもっているのが芸の人)。なくても全然構わないんですね、そもそも。

ですがせっかく根性入れて売り出した画期的な製品に、変な英語がくっついていては逆効果 。工業立国日本にそういうことがないようにと、余計なお世話をする次第です。まー、ホントは単なる趣味なんだけどね、これ。 それじゃ、さっそくご回診。

 


カルテ NO.1  ラオスの液晶画面 クリーナー 〜パソコン周辺危機の巻〜

(注:登場する会社・製品名はすべて仮名です)


■■クランケとの出会い■■

最近マックのパワーブックを買った。同時に風邪をひいた。風邪を治すために仕事しながら、夏みかんを死ぬ ほど食べた。その結果. . . 液晶ディスプレーは夏みかんの汁がついて実に不潔になった。しかも埃・たばこのヤニつき。学生時代の貧乏アパート暮らしで昔から不潔には慣れている私も、さすがに我慢が出来なくなった。お掃除道具を買いにでかけたときに出会ったのがクランケである。

これはすぐれもの。水洗い出来るパッドをグリップと装着して、持続性抗菌剤「ショウコウジョ」を配合した液体を塗り、ふきふき。すごくきれい。ピーカピカ。実はそれまでティッシュにコーヒーつけて拭いていたんだが、ずいぶんちがうもんだ。ショウコウジョはたくさんあり、ずいぶん長持ちする予定。ちょっといーなーこれ。

■■クランケの容体■■

Laos can produce comfortablecomputer-life. To look at present and create future. There are reliablequality and new technologies. (社名を除きすべて原文のまま)

■■診断■■

かなり重篤である。「単語くらいわけて書こうよ症候群」の顕著な一例。このままでは、僕の大好きな小公女セーラが傷ついてしまう(*1) 。

□1行目

★can これは勘違いしている人が多そう。can は「できる!」という力強さをあらわす単語ではありません。「潜在(potential: やろうと思えばできる)」です。だからこの文は「ラオスはやろうと思えばできる」になり「やってるぜ」にはなりません。「やろうと思えばできるんだけど」では宣伝文句になりませんね。

★computer-lifeうう。意味不明。「コンピューター生活」?うう。わからん。それがcomfortable だとはなおさらわからん。まーどーしても使いたいなら a computer life なんだろうが、そもそも意味不明なんだからスッパリあきらめて書き直した方がいいですね。ちなみに「なんとかライフ」は英語としては実に座りが悪いんです。car life なんてのはあるけどね。でもそれは「車のある生活」という意味ではなく「どのくらいもつか(車の寿命)」という意味です。

□2行目

★To look . . . この to はよくわからん。「ために」と考えても「今を見つめ未来を作るために . . . 作ることができる」では、おそらく誰にも意味が通らん。to不定詞は、その前と後ろがあきらかな意味関係(「ために」とか「その結果 」とか)を結んでいなければなりません。

★create futureなんだかボーッとしていてよくわからん。冠詞をつけましょうね。

□3行目

★There are . . . 「ある」としたいのですね。でもこんなところに there は使えません。それに「quality とtechnologiesがある」では「ま、そりゃあるだろー」という反応になるでしょう。大切なのはラオスがそれをもっている・ラオスにはそれがある、という一点です。うう。僕の本を読んでくれれば、こーゆー thereは絶対でてこないはずなのに。読んでねーな。


□編集部注:(*1)大西先生は重大な勘違いをしている模様。実際の成分は「シュウチク  ジョ」です。


■■治療方針■■

投薬の範囲は超えています。思い切った手術が必要となるでしょう。

■■術後の経過■■

Laos products make for trouble-free computer-use. We live in the present and work to create the future. Using new technologies, we ensure reliable quality.

これで快癒しました。僕のパワーブックを綺麗にしてくれたクランケが、この宣伝と共に世界に羽ばたいてくれることを願っております。みなさんもふきふきしてくださいね。ふきふき。

■■レセプト■■

THEREとTO不定詞など、病状は広範囲に及んでいるようですからセフェム系の抗生剤を出しておきましょう。

「ネイティブスピーカーの英文法」(研究社出版)

「ENGLISH BRAIN FORCE story A」

どちらもスペクトルが広範囲ですから、必ず効きます。二度と当検査室に帰ってこないようにしてくださいね。まいどあり。


□□□編集後記 (no.1)

ようやく「検査室」始めまりました。おまちどおさま。広告・商品をデザインするときに、日本語ではなくアルファベットを使いたくなる気持ちはよく理解できます。形が単純でよく図案に溶け込みますからね。ですが、アルファベットは単なるデザインではなく「ことば」なのです。ことばである以上無茶はできません。それを「無茶」と受け取る一群の人々がいるからです。

「奇妙な英語」は日本人の専売特許ではありません。どの国でも頻繁に見受けられますし、ネイティブですらへたくそな英文を書く人もたくさんいます(機会があれば特集しましょう)。「日本人は特別 英語が苦手」だからミスをするわけではないのです。

ちなみに「日本人は他のアジアの人々(中国人、韓国人など)と比べて英語が苦手」と喧伝されていますが、私の経験ではそのようなことはありません。韓国に学会発表で行ったとき、ソウル大学の学生諸氏にかたっぱしから道を尋ねたことがありますが、ほとんどまともな返事は返ってきませんでした。北京でも似たようなものです。

「日本人が特に英語が苦手」というのは、まぁ商売上のテクニックの1つなのでしょう。

ノンネイティブである私たちが、奇妙な英語を書くのは当たり前。恥ずかしいことではありません。ですが、それが誇るべき商品と共に流通 するとなればやはりそれは、困ったことでしょう。 このメルマガは「こんなとこ間違ってやんの」と揶揄するために書いているわけではありません。編集の過程で当然排除されるべきミスに敏感になってほしい、そしてそのミスの分析の過程で、私たちが「ひとのふりみてわがふりなおせ」のヒントを拾い上げられたら。そうした願いを込めて書かれています。

もしあなたが広告に携わっていたなら、語感の良いネイティブ数人にあなたの原稿を見せてください。それでつまらないミスのほとんどを防ぐことができるでしょう。え?「そーゆーネイティブがまわりにいない」ですか?うーん... それは厳しいですねぇ。...ま、どーしても困ったら私たちにメールくださいな。