Car_File 3. 虚弱体質の貴婦人アルファスパイダー


イタリア・フィアット傘下のスポーツカーメーカー Alfa Romeo のオープンカー。

スパイダー焼き肉大好き宗方コーチ。ジョギング中のマリリン・モンロー。おおよそ色男・色女なるもの心身の健康とは無縁だ。むしろ不健康こそが魅力に磨きをかける。病弱な美女は近寄りがたいオーラを放つが、駆け足の早い美女はただの飲み友達になる。

私がアルファスパイダーに会ったのは 1995年。茨城県に家を建てて2年目。牧場の隣に住んでいた時代だ。家から4KM 離れた寒々としたセブンイレブンで立ち読みしていた私は、この車の写真を見つけて目が釘付けになった。ヘッドライトがウインクして「待ってるわ」と言ってるような気がした。「エラくなったら迎えに来るよ」。

実車に会ったのは 1997年ロンドン。オープントップで郵便局の前に停まっていた。あんまり熱心に眺めていると車泥棒と間違えられるので「Oh, yeah...」とか言いながら通り過ぎた。だけど5回ぐらい振り返った、5回目にハゲたオヤジが乗り込んだのが目に入って、村一番の美人がお代官様に身売りされたように感じた。「ごめんね。僕、今年飢饉なんだよ」。

そして2001年、やっと身請けの時は来た。

「大西さん、ホントに新車でいいんすか?この車日本デビューが'95春なんですよ。こんなこと言ったら会社に怒られちゃうけど中古だって沢山いいタマがあるんです。うちにもほら、黒いのあるでしょ。あれなんか新車の半額以下ですよ」
大好きな車はやっぱり新車でというのはあるが、それ以上にイタ車の中古は怖い。最近自動車雑誌にはイタ車も「昔のようには壊れない」とある。それは確か。だけど「トヨタのように壊れない」わけじゃない。新車を買って1週間目に気がついた、

...イタ物は新車でも十分怖いのだった。

虚弱な貴婦人アルファスパイダー。エンジンは動かなくなるし、灰皿はモゲるし、電動トップに至っては1年で4回入院。内1回は全面 換装。だが愛は壊れない。いや、「だからこそ」愛は壊れぬ のだ。虚弱体質が刺激する陰性の愛情。故障すればするほど深まる「やっぱりこの子には僕が必要なんだ」の底知れぬ 闇。

スパイダーはもういない。そしてそれは必然であり運命でもある。宗方コーチは涙をもって送られねばならぬ 。それでこそ物語は美しいのだ。