050529 ファーブル昆虫記

最近新幹線に乗ることが多い。多いときで週に2回は乗っている。そして3回に1回は腹立たしい思いをしている。  

乗るのは自由席に決めている。疲れているときにはグリーン車でゆったりと、という気もしないでもないが、その度に数年前になくなった恩師 K 教授が必ずエコノミーで通されたことが思い出されて、未だに買えずにいる。教授はファーストクラスが購えなかったわけではない。費用はすべて相手持ち、という時にも必ずエコノミーを選ばれた。そういった些事の総体が彼の高潔な人格を形作っていた。

通勤帯の自由席は非常に込み合う。時間に余裕がないと、空いている席を探しながら 1両目から5両目まで歩くことになる。3列席の場合、窓際、廊下側、真ん中の順で席は埋まっていく。席を探すときには、たいてい両脇の人に「真ん中の席は空いていますか」と訊きながら歩くことになる。

「その席空いていますか」40半ばのスーツ姿の男に声をかける。真ん中の席には荷物がのっている。

「......」私の目を見ながら、答えようとしない。聞こえなかったかもしれないと思い、もう少し大きな声で

「空いていますか」 

「見りゃわかるだろっ、人が来るんだよ」

確かに私はろくな渡世はしていない。私が死んでも家族以外は3日もあれば私が存在していたことなどきれいさっぱり忘れてしまうだろう。しかし、このような無礼な扱いを受けなくてはならない理由はないはずだ。

「失礼な人ですね、あなたは」 まわりの空気が緊張する。よく眺めると、くたびれたシャツに、ゆるめたネクタイ、その上には貧相な顔が乗っかっている。言い返されたのが意外だったのだろう、視線がネズミのように小さく揺れている。急にかわいそうになって、踵を返し、別 の席を探しにいった。後でトイレに立ったときにふと見ると、あれから1時間もたっているのに「人」は来ていなかった。

これなどまだましな方である。一度などは顎で「あっちにいけ」とやられたことがある。「何をしにきたんだ」という目で見られたこともある。

虫の論理。

虫も子供を育てるのだろう。そうやってゆっくりとこの世界は虫の世界になっていくのだろう。お互いに威嚇しながら、自分の欲望に最短の距離を進むような社会になっていくのだろう。

K 教授はなんとおっしゃるだろうか。