朝、寝ぼけ眼をこすりながら新聞を読んでいたら、家内が
「きょうは青山に行きます」
突然のことに驚きながら(自宅は名古屋である)、
「お、おまえなんでまた、そんな遠くに...、だいたい子供は...」 みなまで言わせず、
「何を言っているんですか。今日は家族で温泉にいくんでしょうが。「青山」はあなたがフラフラしている東京の「青山」ではなく、三重県の青山高原。リゾート旅館の「メナード青山」。さっさと着替えて車でも磨いてください」 怒られた。
......思い出した。私の家でも今年こそ人並みの夏休みを送らねば、と思いきって和風旅館を予約したのあった。
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私は本来どこにも行きたくない性格である。イギリスにいたときも、ロンドンとオックスフォードの往復だけで寄り道したこともない。呆れた家内は子供を連れてさっさとフランスまで遊びに行ったりする始末だったのであるが...この夏休みはちがう。いろんな所に行かねばならぬ 。いろんなところに行かねば、娘の絵日記が埋まらないのだ。絵日記が埋まらないと、娘が先生にシバき倒される。
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ところで私の車に地図はない。滅多に使わないからだ。迷ったら誰かに聞けばいい、と思っているのである。しかしこれが大きなまちがいであった。
やたらと狭い山道をもうすでに10K 以上走っている。対向車がきたら待避帯までバックしないとならないような道だ。さっき脱輪して腐っている車を1台見かけた。 「急ぐと死ぬで」の看板もあった。
「おかしいなぁ、「青山高原」の矢印をたどっているのになぁ。この道はリゾートへの近道、というよりか死出の旅に近いイメージだよなぁ」
「だから、地図をもってくればよかったんでしょ」 家内が不機嫌になる。
突然山頂に至り、急に視界が開ける。目に飛び込んできたのは「陸上自衛隊...駐屯基地」の看板だ。
「おっかしいなぁ。その旅館、自衛隊との協賛なのかなぁ。風呂は火炎放射器で炊くのかなぁ」 家内は横を向いたままである。
仕方なく数キロ走ると、インディジョーンズのような格好をしているおじさんがいたので道を訊いた。
「ははははは。地図みたかね?ここには「青山高原」はいくつかあってねぇ、あんたの行きたいところは、ここから 10K先の国道を行って.......。ここは国定公園青山高原。」
車に戻った私が事情を説明すると、 家内は小さな溜息をついた。このままでは父の威厳にかかわる。私は難しい顔を作りながら、
「おい、人生いたるところに青山あり、だなぁ」
父の威厳が回復しなかったのは言うまでもない。