021118 Freude am Fahren 3

人を外見で判断してはいけない。

 小さな頃から親に口を酸っぱくして言われていた。襤褸は着てても心の錦、という人は世の中にたくさんいる。ボロボロの服を着ている人の外見から集めることのできる情報は、単にボロボロの服を着ているという事実だけだ。見えないところはわからない。才能も人柄も。全身ブランドづくめの人でも、見えないパンツは3枚1000円だったりするものなのだ(知らんけど )。まぁこんなことは小学生でも知っている。だが世の中広いものだ。こんなこともわからん大人がいようとは。

 Range Rover の加速が余りにも上品すぎたので、今回はスポーツドライビングで有名なドイツ系の車屋さん(名は特に秘す)。Freude am Fahren というキャッチコピーで有名な会社だ。

 「4駆でも結構速いみたいだよ」

弟の勧めにに従って、見に行った。この会社の車は嫌いではない。普通の家庭用セダンも、がっしりとしたそこそこのドライブフィールだからだ。

 ちなみに私の格好は、ジャージよりちょっとましな上着に、パジャマより少しだけましなジーパン。乗って行った車は下駄 代わりに使っている 8年選手。洗っていないので猫の足跡とカラスの糞つき。

 車屋さん行くのにカッコつけてもしかたないや

そう思ったのが不運のはじまり。

 ショールームの中で目当ての車を開けたり座ってみたりしていても、忙しいのか誰も寄ってこない。普通 は「どんな車お探しですか」とか「お気に入りの車が何かございますか」と、説明要員が寄ってくるのが普通 だ。だが誰も来ない。

 仕方がないので、店のソファでカタログ読んでいると、店員の中で一番偉いと思われる人が近づいてきた。推定年齢43。髪の毛七三。ポマードつき。痩せ型。黒背広。

 「なにか」

学校の先生という職業柄、相手がどんな気持ちで話しているかは大抵わかる。顔面 の表皮だけで慇懃な笑みを作っている彼は概略、

 さっきからジロジロ眺めているんだから、もうそろそろ帰ってくんないのかな。僕のお店は高級外車なの。君みたいなカッコして来てもらっても困るんだよね。あ。外に止まってるの君の車?だめだめ。あーゆー車に乗ってる人がよく来るんだよ。わかったわかった記念にカタログ欲しいんだね。いーよいーよ、原価高いけど特別 にあげるから、さっさと帰ってね。邪魔だから。

と思っているようだ。慇懃無礼な笑いを崩さないまま、

 「....カタログお持ち致しました。何かご質問は?」 邪魔ですよ、って顔。

なんだかすごく不愉快になってきた。ちょっとフィールだけ確かめて帰ろうと思って

 「試乗車ありますか」

 「当店では置いてございません」

 「試乗しないで買うような人いるんですか。SUV系は初めて出すんでしょ?」

 「はいはいそれはもちろんでございます。当方のお得意様はその様なお客さんばかりで。(あんたみたいな人じゃないの。ウチのお客は)」

あほらしくなったので店を出た。車屋さん恒例の「お見送り」もなし。車買いに来てこんなに馬鹿にされるのもはじめてだ。あんまり腹が立ったので知人のロールス借りて来て玄関塞ごうかなとも思ったが、あまりに大人げないのでやめた。

 Freude am Fahren ---駆け抜ける歓び---

駆け抜けると嬉しいが、立ち寄るとバチが当たるってことなんだろな、きっと。

 

(後日談)この会社の名誉のために付け加えるけどが、僕はよっぽど運が悪かったらしい。気を取り直して同じ会社の別 の販売店に行ったら、今度のお店はすばらしかった。人の良さそうなおねえさんがコーヒーも出してくれたし、気持ちよく試乗もさせてくれた。帰りはビニールバックもくれた。これなら立ち寄っても「歓び」だ。だが車は... ドイツ車らしい乗り味、趣味のいい内装だったが、残念ながら「僕」じゃない。3.0のエンジン(4.4.もあり)で2トンもあったら、それは辛い。床まで踏んでも、僕の「下駄 代わり」より遅かった。

 うーむ。頼みの綱が。