021119 瞼の父

朝、7:00。

 慢性的な睡眠不足だと、プラットフォームに入ってくる新幹線がベットに見える。そそくさと乗り込み、リクライニングを倒し、ジャケットを掛ける。この時間の新幹線は、普通 とても静かだ。話している人は滅多にいない。皆一日の仕事が控えているからだ。いびきをかいている人も1人や2人ではない。働くおじさん専用電車というわけだ。

 「ふー」

 長い息をつき靴を脱いで、私もこれから2時間至福の睡眠... のはずだった。だが。

 しゃりしゃりしゃりしゃり。ちーん。しゃりしゃり。

右隣りの60絡みのおじさんが、信じられないことにイヤホンでロックを聞いている。

 しゃりしゃりしゃりしゃり。どんつく。しゃりしゃり。どんどんつくつく。愛ぃーがぁーいたいー。

何だそれは一体。

 このテの音は、神経を逆撫でする。ま、すぐに注意するのも可哀想なので、しばらく左の通 路側を向いて我慢することにすると... ...通路を挟んだ隣からも、

 しゃりしゃりしゃり。ぱふぱふ。

 小太りの20代の男の子。サラリーマン。姿勢を見るとすでに眠っているようだ。

 両隣からしゃりしゃりやられると、さすがに眠れぬ。

 30分は国民の義務として耐えた。20分は生来の内気な気性から。...もはや限界。目をつぶって亡父に問いかける。

 「おとーさま。これから僕は不逞の輩に諸注意を与えます。暴力は絶対反対ですが、相手が凶悪だった場合正当防衛をせねばなりません。万が一の場合、おとーさま直伝の「かかと落とし」を炸裂させてしまうかもしれませんが、それでもかまわないでしょーか」

 瞼の父、大きく肯く。許可が下りたので、まずは左の若者から。

 

 動くのもめんどうなので、もっていた雑誌丸めて肩ポンポン。

 「すまんが眠れないんだよ。その音楽。やめてもらえんかな」 

眠っている途中で起こされて状況がわかっていないようなので、耳を指さして

 「うるさいんだよ」

カクカクうなずきながらボタンを押して、音が消えた。次は隣のおやっさん。年長者を雑誌でポンポンするわけにもいかないので、前から目をのぞき込んで

 「申し訳ありませんが」

それですべてを察知して

 「あ。すいませんすいません」

無音。

 朝っぱらからしゃりしゃりぱふぱふ大音量。金髪小僧ならともかくいい大人が、だ。他人への配慮はどこいった。小学校で道徳の時間、眠ってたんじゃないだろな...。ムカムカしながら寝つかれずにいると.....

 「ただいま列車は新横浜を通過しました」のアナウンス。

15分で東京、ということだ。 嗚呼。