050713 誤訳について


She dwelt among th' untrodden ways
Beside the springs of Dove,
A maid whom there were none to praise
And very few to love

A Violet by a mossy stone
Half-hidden from the Eye!
---Fair, as a star when only one
Is shining in the sky!

She lived unknown, and few could know
When Lucy ceased to be;
But she is in her Grave, and Oh!
The difference to me.

         (William Wordsworth)

 

 第3スタンザ最終ライン。ち、まただ。誤訳しやがって。なにが「生きてる私は死んでるあなたとちがいます(difference to me) 」だ。おまえはホントに誰かを好きになったことがあるのか。愛する人を失ったことがあるのか。

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 恋を想うといつもこの詩を思い出す。はるか昔失った心の動きを懐かしみながら思い出す。恋とはこうしたことだ。

 恋はきらびやかな場所にだけあるものではない。恋は誰もが手にできる。そして手に取ることのできるあらゆるものの中でもっとも貴重なものだ。心が結ぶことのできるもっとも高次の結晶体だ。

She dwelt among th' untrodden ways
Beside the springs of Dove,
A maid whom there were none to praise
And very few to love

人の通わぬ(among th'untrodden ways) 山中に住む女性にも恋は訪れる。誰から誉めそやされることがなかろうとも。誰からも振り返られることがなかろうとも。

 

 恋は一切の比較を拒否する。恋は唯一を糧とする。舞台に上がった者だけに見える唯一の角度。恋はその中にしか生きることはできない。

A Violet by a mossy stone
Half-hidden from the Eye!
---Fair, as a star when only one
Is shining in the sky!

苔生した石の向こうに、隠れるように咲く菫を見た喜び。誰も持ち得なかった角度をえた歓喜。星の煌めき。その星は、暗い夜空に輝く唯一のものであるところに絶対の価値がある。

 

 恋とは残酷な逆説である。断絶と喪失だけがその本当の価値を形作る。舞台から降りながら振り返るとき、恋はもっとも強い光を放つ。

She lived unknown, and few could know
When Lucy ceased to be;

人知れず生き、人知れず死んでいった Lucy。自分だけが知っていたLucy。ただ恋人が死んだのではない。生きるに足る唯一の価値を道連れに消えていったのだ。世界を支配した唯一の角度を引き千切り根こそぎにしていったのだ。

 

 簒奪。

 

 

 

But she is in her Grave, and Oh!
The difference to me.

恋の舞台を降りた人間なら誰でも感じるはずだ。世界がちがうのだ。空気がちがうのだ。切断面が叫ぶのだ。もう失われたのだと。閉ざされたのだと。

 ひとのもっとも美しい営み。それが語られていたからこそ、この詩は世紀を越えて生き残った。ひとの美しさを率直に語ったからこそ、誰もがこみあげるものを隠さないのだ。

 

***

 ははは。翻訳のむずかしさを書くつもりだったんだが筆が滑った。まっいーか。おぢさんはもう退場したが、現役諸君はがんばってくれたまえ。だけどね。覚えていた方がいいよ。人生は美しい。

 うん。十分うつくしい。