英語のはらわた no. 10

今週は Sir Isaac Newton 第2回。    

Newton の自画像が海岸で戯れる1人の少年に重なってきます。その絵画的 美しさを支えるいくつかのテクニックを舐めていきましょう。

I do not know what I may appear to the world; but to myself I seem to have been only like a boy playing on the seashore, and diverting myself in now and then finding a smoother pebble or a prettier shell than ordinary, whilst the great ocean of truth lay all undiscovered before me.

【大意】 世人が私に下す評価については知る由もないが、私は海岸で戯れている1人の 少年に過ぎぬ。ほんの時折、滑らかな小石やかわいらしい貝殻を見つけては心 を浮立たせているのだ。眼前には底知れぬ真実の大海が遙か広がっている。

 

表現を舐める

前回は boy までの解説でしたね。今回はそれ以降の表現を解説しましょ う。  

diverting myself (楽しむ)  

まずは小さなポイントから。ネイティブにとってこの文章が古く感じられる 箇所はいくつかありますが、この言い回しはその最たるものでしょう。「わき へそらす」というイメージの単語ですから、次のようなイメージから「楽し む」という意味が生まれるのは自然なことです。    

━━━━━━━┓-----------------------> 日常・仕事...         ┃                    ┗━━━━━━━━━ diversion   

ですがこういった divert の使い方は、現代の英語ではすでに廃れてしまって います。フランス語やスペイン語では普通に使われているんですけどね。   

a. Me diverti mucho anoche.   
b. *I diverted myself a lot last night.   
c. I had a great time last night.   

スペイン語ではこの用法が今も生きていますが(a) 、英語では非常に妙な文 (b)。もちろん c のようにならねばなりません。

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... a boy playing on the seashore, and diverting myself in now and then finding a smoother pebble or a prettier shell than ordinary...  

さあ、海岸で戯れる少年の姿が目に浮かんできましたね。さて少年は何をし て楽しんでいるのでしょうか。ここからがテクニックの勝負です。

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in now and then finding a smoother pebble or a prettier shell than ordinary ...

(時折滑らかな小石やかわいらしい貝殻を見つけることで...)

この情景の美しさを理解することができましたか?それを理解するには now and then と a pebble, a shell の呼応を感じなければなりません。たとえば now and then を sometimes にしたり、smoother pebbles or prettier shells と複数形にしたりすると、途端にこの美しい絵は壊れてしまいます。 now and then (時折)  now and then は「= sometimes」でしょうか。そうではありません。 sometimes の頻度を図であらわしましょうか。     

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sometimes は「規則的」です。ポンポンとテンポよく事態が起こります。それ に対して now and then は   

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ずっと不規則な感覚を伴っています。「ポン・・・・・・そして・・・ま た・・ポン」、そうした感触を伴っているのです。  

Newton は、人類全体にとって重要な発見を立て続けに成し遂げたように思 われています。ですが彼自身にとっては、少年がホンの時折「ああ、あの石キ レイだ」と思って手にする... それと同じ事をやってきたにすぎません。テン ポよく「はい、これ発見。次それ発見」ではないのです。また、その石が pebblesだったとしたら、どうでしょう。1度にざっくりと手にするのでしょ うか。 ほんの少し表現を弄るだけで文が壊れてしまう、そうした完成度の高さをこの 文章はもっているのです。    

ほんの時折1つ、そして.... また...1つ、と拾い上げる、少年の愛しい所 作が、「小石」「貝殻」の喩えと相俟って、自らの偉業を謙遜する人格の美し さとつながっているのです。      

the great ocean of truth lay all undiscovered before me (眼前には底知れぬ真実の大海が遙か広がっている)  

語句のレベルで気をつけてもらいたいのは before の響きです。もちろん before me(私の目の前で)という意味ですが、単なる in front of とはまっ たくちがう響きです。実際ここに in front of を見つけたとしたら、この文 章が積み上げてきた荘厳な情景は霧散してしまい、私は夢にもこの文章を解説 しようなどと思いつかなかったはずです。    

「〜の前(場所)」を標準的にあらわすのは in front of。(*印はその文 が不自然なことをあらわす)

a. Don't stand in front of me. (僕の前に立つなよ)  
b. *Don't stand before me.  

b の文は「へ?」という感じ。不自然です。before は普通時間的な、あるい は順序的な「〜の前」しかあらわしません。  

c. Brush your teeth before going to bed. (寝る前歯磨き:時間)  
d. Business before pleasure.(楽しみより仕事:順序)  

つまり、ずいぶん以前に述べた用語を使うなら、場所の「前」に関しては、 in front of がデフォルトだということです。場所に使われるbefore は「デ フォルトからの逸脱」、それゆえに特殊なニオイが伴うのです。    

The final was played before a crowd of 50,000.  (決勝戦は5万人の観衆の前で行われた)  

そこには感情の動きが伴います。「おー」「あぁ」など、感情を揺り動かすも のを見いだすとき、before の出番となるのです。  

この文章で before が使われた途端、はるかな the great ocean of truth が目 の前に迫力をもって広がってきます。そして--- before が「時間」のイメー ジを引きずるからでしょう---、ただ物体としてそこにあるのではなく、現在 から未来への広がりを見せているのです。もし in front of なら... 。      

もちろんみなさんは文学作品を書くわけではありませんから、このレベルの テクニックを駆使する機会はないのかもしれません。ですがそれを感じる力だ けは身につけておいていただきたいのです。前置詞1つで文の価値が決まって くる「生の英語」が見えてくるならば、「〜の前=before」と機械的に英語を 扱う勉強には満足できなくなるでしょう。その不満足こそがみなさんをさらに 押し上げる原動力となってくれるのです。

英語の、特に名文と呼ばれる文章は、日本語同様非常に微妙なイメージのコ ントロールの上に成り立っています。そしてそのコントロールの仕方を少しず つ学ぶ、それが高度な文章を書くための唯一の道なのです。    

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次回はこの文章の形を舐めていきましょう。    

 

   

□□□おーにしの不惑日記 (no.12)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

□命日    

8月27日は父の命日だった。墓をたわしで擦りながら「僕がそっちに行くの はいつになるんだろうねぇ」と世間話をしてきた。景気づけに線香を山ほど 買って火をつけたら、煙にならず燃えちまった。まことに父らしい。    

□わしのレコード  家に帰る途中西友で、父が好きだった花林糖と午後の紅茶とチーズ蒸しパン を買った。入院中よく差し入れたものだ。食べながら聞いたのが次の曲。  

モーツァルト作曲/レクイエム ニ短調 
K.626 Mozart, Wolfgang Amadeus / Requiem in D minor K.626 

死者に作曲を依頼されたことから死を予感したモーツァルトは、己のための鎮 魂曲を泣く泣く作曲した──という逸話つきの名曲。実際この曲の中の「ラク リモサ(涙の日)」の章で、未完のままモーツァルトは35歳でこの世を去る こととなる。 涙なしでは聞けないよ。ハンカチ用意するのを忘れずに。

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