今回は、単純な内容をもった記事に焦点を当てましょう。単純な内容であっても、それを文章にする過程は単純ではありません。単純な内容であればあるほど、書き手の資質が問われるのです。
The trend of negative ions which has hit Tokyo is attributed to a boom in health consciousness in a city starved of fresh air. The phenomenon first popped up early last year but customer interest took off after Japanese television shows shone a spotlight on negative ions. The biggest health benefits lie with the pricey machines that seem to have sprouted in every home appliance department across the city. Now the manufacturers are using the minus ion buzz to sell everything from washing machines to hair dryers. 【大意】 東京でのマイナスイオンの流行は、新鮮な空気を奪われたこの都市における健康増進ブームがその背景にある。流行の兆しは昨年早々に現れたが、消費に火がついたのは、テレビ番組で紹介されてから。街中の家電売り場ではマイナスイオン効果 をもつ製品が雨後の筍のように現れている。洗濯機からドライヤーまで。企業にとってはこの流行はまたとない好機となっている。 |
内容は単純ですが、書き手の神経が文の隅々にまで行き届いていることがわかるはず。まさにあらゆる機会をとらえて、ある雰囲気を醸し出そうとしています。それは、この流行の「勢い」。
hit(叩く)。まさしく typhoon のように流行が東京を hit しています。
音から受ける感触がこの単語の勢いにつながっています。quick rise(in popularity) であり、爆発的であり、その場を覆ってしまう、そういった力強さをもっています。
もちろん意味的には a heavily polluted city ということですが、starved(飢えた) という強烈な単語を引き出すためにこうした形を選んでいます。前の health と fresh air が連鎖を作り、それを強烈に打ち消す starved。それによって negative ions が爆発的に流行している理由が説明されます。
starved of/ starving for
city を starve で修飾する場合、可能な形はこの2つ。私なら、やはりこの書き手のように -ed を選択します。
starving for なら「(〜を求めて)飢えている」ということになり、city が自発的に「欲しい欲しい」となります。一方 starved of なら過去分詞 -ed が基底にもつ受動的感覚(imposition) ---ここでは 「fresh air の枯渇を強いられている」--- が空気の重苦しさを惹起します。この2つの選択。みなさんも -ed に賛同いただけるのではないのでしょうか。
単にappeared だと平たくなってしまいますね。そこで popped up。音との類推で「ポン!・パン!」という勢いを感じる表現になっています。
took off
もちろん、飛行機の離陸が想像されています。滑走路を離れた途端速度を増し空に向かって飛翔する、エネルギー・勢い。increased にしたときのつまらなさ、平たい感触を想像してください。その差がそのまま、筆者の才能の高を示しているのです。
shone a spotlight on(照らす)
「light で照らすは shed light on... だ」と暗記していませんか。shed light は広い範囲を照らします。今みなさんは目の前の子犬を「抱きたい」と思っています。手を広げてあげてください。そう、子犬を呼び込むように...それが shed light の照らす範囲です。ピンポイントで照らすような狭い光ではありませんね。ですからこのフレーズは「(ものごとに)新しい光を当てる(新しい説明方法・事実観察の方法を与える)」といった具合に使うことができるのです。説明するためにはある程度広い範囲に光が当たっていないと困りますから。 この shone a spotlight on、spotlight ですから shed は不可。1つのものだけに焦点があったピンポイントの laser beam です。テレビ番組がどんな紹介をしていたのかがわかりますね。
sprouted
いいですね。この表現の選び方。sprout は「芽を出す」つまり植物を連想させます。 beansprouts は「もやし」でしたよね。何も無かったところに芽吹くようにワッと出現したということですよ。もちろん「大量 に」というニュアンスも感じられます。
across the city (街中に) 画用紙とボールペンを用意しましょう。童心に返って横線をたくさんざーっと引いてください。そのあと同様に縦線も...。それが across the city です。all over the city と同様の「どこでも」感。その強さがここでは重要なのです。in では、少々弱すぎますね。私の英作文クラスの学生なら一言注意するところです。(*1)
(*1) 前置詞が苦手な方は、「ネイティブスピーカーの前置詞」をご覧になってください。この across の語感ももちろん説明してあります。「はらわた」を書き始めてから多くの文章を仔細に検討していますが、「これも説明しなければならなかった」と思わせる使い方にはまだ出会っていません。出版して6年経ちますが、依然として満足できる著書の1つです。 「ネイティブスピーカーの前置詞」
buzz のもつ音。buzz は (bumble)bee の羽音です。ブーンブーンと誰にでも聞こえる耳につく音です。それが聞こえないなんてありえません。もし聞こえないとしたら If you don't know it, you're out of it! (流行遅れ) ということです。単に「流行」と訳すだけでは足りないその強さ、インパクトを理解できますね。
is attributed to: 〜に起因する
phenomenon: 現象
pricey: 高価な
manufacturer:メーカー
■■■
この単純な内容に注ぎ込まれている書き手の工夫。イメージが「勢い」に収斂 するように周到に配された表現。もうみなさんは手に取るように理解することができるでしょう。
その理解をみなさんが書く、次の英文に是非とも生かしてください。
また来週。